令和元年53日、最後の様子をここに記す。

 

今、横たわって静かに息をしている雄猫のトラ。しかし手をギュッと握ると、弱々しいながら、かろうじて握り返したり、大好きな鼻タッチをすると、グイッと頭をこすりつけてくる。ゆっくり眠れるようにとまぶたをおろしても、閉じることなく眼はこちらを追ってくるのが分かる。

 昨夜からずっとそばについて、顔に手を当て、手を握り、お互いに温もりを感じながら、じっと横腹の動き、つまり呼吸の有無を見つめている。凄くゆっくりと、でも確かに、まるで深呼吸をするかのように動いている。

 

 こいつとの出逢いは、1年ほど前、うちのグループホームの敷地内に突如現れた。いつものごとく、うちのホームの利用者さんが餌付けをしていた。とても警戒心が強く、なかなかなつかなかったことを覚えている。姿は、ヤマネコのように毛が長く、凛としていて、まるで最近まで誰かに飼われていたかのような井出達と振る舞いだった。一見野生の虎の様だということで「トラ」と名付けた。

 トラは時々敷地にやってきては、ホームの利用者さんたちに見守られながらご飯を食べ、時には近寄ってきて触れ合う事も出来るようになってきた。

 

 そんな折、昨年の大分の夏祭りの夜、うちのグループホームの裏の民家の隅で、ぐったりと微動だにせずに倒れて息だけしているトラを発見した。いつも猫たちの面倒を見てもらっている「ひがし動物病院」の村上先生に慌てて連絡をして、夜間にもかかわらずすぐに治療をしてもらったが、ひどく黄疸が出ており、いつ死んでもおかしくない状態であると診断された。数日間におよぶ先生の懸命な治療の甲斐あって、奇跡的に元気を取り戻し、無事に退院することが出来た。そしてトラは我がホームの一員となった。

 トラの警戒心は嘘のように消失していて、とても穏やかで天真爛漫で人懐っこく、声を掛けると必ず返事をしてくる。そんなトラがとても愛おしく、年齢不詳の彼との生活を楽しむ日々が続いた。

 

そんな日々が続く中、今年の2月末より徐々に食欲がなくなり、それに伴い元気もなくなっていった。精密検査をしたところ、『白血病』であることが告げられた。白血病・・その病気は治ることはなく、死に至る病気だということであった。以前より黄疸の症状はあり、何かしらの病気が潜んでいる可能性はあったため、定期的に治療を行っていたのだが、白血病が他の猫に感染する病気だということもあり、他の保護猫と隔離し、一人部屋での闘病生活が始まった。毎日のように通院し、少しでも食事が取れるようにといろいろなアドバイスを頂きながら、療養食などに切り替え試してみたが、やはり口から物を受け付けなくなり、点滴と注射だけが命を繋ぐ方法となった。前片足が機能しなくなり、手首が折れ曲がった状態でもトイレまでは自分の足で行くことが出来ていたのも、2週間前くらいから歩くこともままなくなり、とうとう動くことが出来なくなってしまった。それでもまだ小さいながらも声掛けに応ずるように返事をする姿は「共に生きたい」という強い思いの表れのようであった。時に一緒に寝、毎日点滴通院をし、とにかく…とにかく1日でも長く共に家族として暮らせる事だけを願った。どれだけ「もっと早くに出逢いたかった」と思ったことか…

 

しかし、5日前に頭皮の一部分の皮膚が裂けているのを発見し、それが背中の大半の部分にもあることがわかり、唯一の命を繋ぐ点滴も出来ない状態となってしまった。

 様態が急変し、入院となった一昨日、ずっと自分なりに考えていたことを掛かり付け医の村上先生に告げた。「先生、安楽死について教えていただけませんか?」と…口に出した瞬間から涙が止まらなかった。先生は優しく丁寧に教えてくれた。泣いて、悩んで、また泣いて…今もだが、どれだけの涙を流しただろうか…しかし、家族のトラに対する想いや死生観を聞き、考え抜いた末に『覚悟』を決めた。住み慣れた我がホームに連れて帰り、自分たちで点滴をして、可能な限り寄り添い、温もりを分かち合い、そして看取ろうと。

 今は裂けた傷口から点滴を入れようにも嫌がって入れさせてはくれない。でも、トラは生きようとしている。必死に。私たちと出逢った時の遅さや病気になった自分の運命を埋めるかのように…

 

 トラ、我がホームにきて、優しさには出会えたかい?温もりには出会えたかい?安らぎには出会えたかい?今、トラは何を思うのだろうか…自分のお母さんの事?野や山を元気に走り回っていた時の事?私たち家族やホームの利用者さんと共に暮らした日々の事?

こういった死に直面した時に気づかされることがある。愛情を注いだ分だけ、哀しみの大きさも同じだということに。いや、哀しみの大きさはそれ以上なのかもしれない…当たり前のことなのだろうが、それは動物に限らず人間も…しかし、哀しみ(悲しみ)をはるかに上回る「喜び」「楽しみ」「温もり」「安らぎ」そしてなによりも「愛」がある。それを総じて『幸せ』と呼ぶのだろう。

 

うちには沢山の保護猫たちがいる。必然、病気や死にも、その数の多さの分だけ直面するだろう…現に今も猫エイズキャリアの猫も数匹いる。でも、きっと乗り越えられると信じている。そこに大きく、沢山の『幸せ』があるから。私たち家族やホームの利用者さん、そして猫たちと共に…

 

“共に生きる”そう心に決めた。それをトラが改めて教えてくれたような気がしてならない。「家族」として共に過ごしたかけがえのない時間を決して忘れることは無いだろう。なぜならば、トラは一生、私たち家族、そしてホームの利用者さんの胸の中に生きづいていくのだから…今はただただ、安らかに穏やかに、天国に旅立つのを祈るばかり…

 

 天国に旅立つ時、薔薇の花と、トラのお腹が空かないように、大好きだった缶詰のフードを沢山持たせるよ。もう一つだけトラにお願いがある…生まれ変わったら『トラ』また我がホームに来いよ。約束。また逢えると信じているから、少し寂しいけど悲しまないでおくよ。

 

                                                          Dear トラ

追記~

 日曜日も祝日も、毎日点滴をはじめ診療をして下さった、ひがし動物病院の村上先生、本当にありがとうございました。心から感謝致します。そして、今後ともどうぞよろしくお願い致します。

 そしてグループホームを運営して感じていることは、猫を通して、グループホームの皆の優しさ、暖かさを沢山感じていることです。猫が居なくなった時は遅くまで一緒に探し、いつも猫たちを見守ってくれています。本当にありがとう。そしてこれからも一緒に沢山の愛情を注いでいこう。

令和元年5月3日  午後21時00分

我がホームの愛猫トラは天国に旅立ちました。




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